キャバレー

caltec2007-10-06



青山劇場にてミュージカル「キャバレー」を観劇。松尾スズキ演出のこの演目、どうなることか?と思って楽しみに見たのだが、ギャグはあるものの、メンデスのような斬新な演出をとることはなく、キャバレーという土俵の枠の中で彼なりの表現を試みた作品になったのではないか?という印象を持った。


個人的には、もっと松尾スズキらしい演出を貫き通した方が良かったような気がした。キャバレーという作品に向き合いすぎたために、キャバレーというミュージカルとして見た場合も、松尾作品として見て場合も、どちらも中途半端な出来映えになってしまったのでは?と感じたからだ。


出演者に関しては、狂言回しのMC役、阿部サダオでもなく、ヒロインサリー役の松雪泰子でもなく、シュナイダー夫人役の秋山菜津子が一番輝いていたように思う。とにかく、演技良し、歌良し、ダンス良し、スタイル良し、コメディ良し、シリアス良し、と大きな穴もなく舞台を引き締める引き締める。。。ミュージカルとして歌を聴かせられたのは彼女とクリフ役の森山未来くらいな気がした。


MC役の阿部サダオは頑張っていたが、どこまでいっても阿部サダヲだったのが残念だった。おいしい役なんだけど、彼が演じるとしたらこう来るだろうなあという想像通りのMCがそこにいたので、いい意味でその機体を裏切ってくれるような、違ったMC像であったら、もっとよかったのになあと少し残念。


ヒロイン役の松雪泰子は、演出なのだろうが、独特のしゃべり方が気になった。松尾流のキャバレーの歌姫の演出方法なのかな? サリー(松雪)とクリフ(森山)の2人とも真面目なためか、2人だけの芝居になると結構いい空気を醸し出していたと思う。特に最後の2人の別れの場面の松雪の感情の露出の瞬間とそれに対応する森山の芝居などは、かなり真実味があっただけに、その他の少しおチャラケた芝居の流れとのギャップがもったいない気がした。


初日に見たためか、まだ1つの作品としてトーンが統一されていないというか、バラバラのピースをつなぎ合わせました、という印象が強かったように思う。ひとつひとつの場面を見ると、それはそれで面白いのだが、観劇後に全体を振り返ってみたときに松尾スズキ版のキャバレーという作品のもつ印象が、やはり中途半端なんだよなあ、という結論に達してしまったのは、そのせいもあるのかもしれない。


作品としての今後のまとまりと、各出演者の今後の成長に期待!


音 楽 : ★★☆☆☆
脚 本 : ★★☆☆☆
演 出 : ★★★☆☆
役 者 : ★★★☆☆
舞台/衣装:★★★★☆
満足度 : ★★★☆☆


<ここからは、後日追記>


ちなみに、朝日新聞の劇評では。。。

集団の狂気と地続きの日常 松尾版「キャバレー」


松尾スズキが名作ミュージカルを演出した(J・マステロフ台本、J・カンダー作曲、F・エブ作詞)。目黒条の翻訳に松尾が手を入れた台本で上演している。


狂言回しであるキャバレーのMC=司会者(阿部サダヲ)が享楽的な雰囲気をあおる街、ベルリン。そこにやって来た米国人作家クリフ(森山未来)はキャバレーの歌姫サリー(松雪泰子)と出会い、一緒に暮らし始める。2人の家主シュナイダー(秋山菜津子)は、果物店主シュルツ(小松和重)から求婚される。だが、世代の違うこの2組の恋は、台頭するナチスに踏みつぶされる。


娯楽性とシリアスな社会性が混じり合うこの作品は、猥雑(わいざつ)な世界の中で人が生きることの痛みを見つめる松尾の劇世界と通じるものがある。それを端的に体現するのは秋山だ。シュルツを愛しながらも、ユダヤ人である彼が迫害されるのを見て、婚約を破棄する熟年女性。コミカルに振る舞いながら、「命がけで無難に生きてる」と歌う彼女の現実の切実さを力強く伝えている。


清潔感のある森山も印象に残る。ベルリンに生きる人々に共感しつつも、過酷な現実を前に、立ち去ることしかできない異邦人。それは安全な場所から舞台を、そして世界を見ている私たちの姿かもしれない。


近年のS・メンデス演出も、ロンドンの最新版R・ノリス演出も、ナチスユダヤ人虐殺に焦点を当てていた。松尾版にこうしたとがった表現はないが、若い娼婦(しょうふ)(平岩紙)がシュルツに向ける冷たい視線や、鉤(かぎ)十字をつけた踊り子たちの軍隊風の行進などで、集団の狂気が日常と地続きにあることを見せて、ぞっとさせる。ただ、私が観劇した日には行進の場面で客席から無邪気な手拍子が起き、これには驚き、とまどった。


松尾が加筆した悪のり気味のせりふに若い観客は沸くが、広い青山劇場(東京)では表層的な笑いはかえって、舞台の密度を薄くしたように感じられた。装置や演技全般にも、空間に見合ったスケールの大きさがほしい。


21日まで。名古屋、大阪でも。


朝日新聞 2007年10月16日15時12分)