肩ごしの恋人

caltec2004-11-16



唯川恵の直木章受賞作『肩ごしの恋人』を読む。直木賞受賞作に駄作はないとは思うけど、逆に賞を受賞していなくても優れた作品も多い。直木賞芥川賞山本周五郎賞etc...いろいろ賞があるが、実はこれは出版社や出版界の策略だ、と最近思うようにもなった。
さて、そういうどうでもいい話は置いておいて、この『肩ごしの恋人』、とても読みやすく、話の展開も面白い。また、唯川さんの言葉選び、文章表現などにも面白さを感じながら読んだ。


対照的な幼馴染の主人公2人の行き方、結婚観、恋愛観などがテンポ良く、進められていく。サクサクと読み進めていけるが、(多くの女性にとっては)時々「そうそう」と深くうなづくような個所がたくさんあると思う。表現は堅苦しくはないが、よくよく読み返してみると、現代女性の置かれた環境だとか、生き方だとか、家族観だとか、いろいろな問題を内包している作品だと思う。それをさらりとエンターテイメント化して書けるところがこの作者の力量なのだろう。


女性作家の作品としては、前回『海猫』を読んでちょっとヘビーだなあ、終わりとか展開とか納得いかないなあ、など読後いろいろ感じ入ったりすることで逆に疲れてたけど、この作品は読みやすくて○。大きくグルーピングすると、林真理子なんかと同じカテゴリーにはいるのかな。


あと、文庫本のおまけとしてついてくる巻末の解説。この本では、江國香織が担当。他人の作品の解説であろうと、江國香織江國香織。彼女独特の感覚で切り取られた言葉が、彼女が感じた気持ちそのままに文章として並ぶ。唯川さんは「梨の文章だ」と定義づけ解説をしてくが、この作品を通じて僕が面白いなと感じたこと、この作品の特徴などが、江國さんの書くことと似ている。でも、とてもそういう文章表現では表せないなあ、とも思い、今回も江國節にうなってしまった。