金閣寺
赤坂ACTシアターにて「金閣寺」を観劇。観劇後の感想としては一言「面白かった」。 本作品は純粋なストレートプレイではなく、いろいろな要素が盛り込まれている作品なのだとは思うが、その世界観・舞台上の空間・空気感が不思議と嫌ではなかった。confortableという意味での居心地の良さではないのだが、混沌・廃頽な中にも、妙にすっと心に入ってくる、そんな波長が合うような感覚を感じる瞬間が多かった。
面白かった理由としては、次の３点が挙げられると思う。
①役者の妙：
本作品は、主人公溝口を中心に、そこに柏木・鶴川の２名が加わった３人の関係性が重要になってくると思うのだが、溝口（森田)、柏木（高岡）、鶴川（大東）それぞれが持ち味を発揮していて良い演技をしていたように思う。
本作品を良いものにしているのは、主役の森田の素晴らしい演技であることは間違いない。繊細で真摯に「溝口」という役を向き合い、彼なりの溝口像を描き出していたように思う。
森田・大東は劇団☆新感線の舞台ですでに観ていて芝居はイケルなあ、と思ってはいたが、今回初見となる高岡が想像していたよりも遥かに良かった。華があるなあというのが第一印象で、声通りも悪くないし、これから舞台で活躍できる役者である印象を受けた。
②斬新な演出：
溝口にとって、金閣寺とは「絶対的なもの」であると思うが、それを「鳳凰」という、ある種超人的なキャラクターに擬え、しかもホーミィー（ホーメイとも言う）で音声表現するところにまず驚いた。
そして、読書会で三島の「金閣寺」を読むところから、物語の世界へ入っていく導入部のつくりであったり、読書会の教室のセットの机やロッカーや椅子が、巧みにいろいろな意匠に変化していく、その舞台セットも良かった。
③小野寺修二の振り付け
今回の金閣寺がいわゆるストレートプレイであったなら、実は退屈していたと思うのだが、現代音楽・照明の中、小野寺修二振り付けの動きが入ることで、「現代の」金閣寺になっている印象を受けた。芝居もとても良いのだが、その合間合間にマイム的な要素が入ることで、一本調子になりがちな舞台世界に変化を与え、良い効果をもたらしていたと思う。
本作品の概要は以下のとおりだ。
日本文学金字塔、世界のMISHIMA不朽の名作「金閣寺」。
今夏“リンカーンセンター・フェスティバル2011”に正式招待され、大絶賛を受けた舞台が、東京、大阪での凱旋公演決定！
宮本亜門が芸術監督を務めるKAAT 神奈川芸術劇場オープニング作品として上演された「金閣寺」。生来の吃音から疎外感に悩まされ育った主人公溝口を森田剛が、下肢に障害を抱えながらも不敵に溝口を挑発する柏木を高岡蒼甫が、また溝口とは寺の同朋で、明るさの裏で自死を選ぶ鶴川を大東俊介が、それぞれの若者の苦悩を全身全霊で見事に演じました。
「金閣寺」は舞台と映像、身体、声で三島文学を多層面に描き、「生とは何か」「美とは何か」と自問する溝口と二人の友人を主軸に、現代の若者にも通じる閉塞感を見事に造形します。
2011年7月、ニューヨーカーの魂をも揺さぶった「金閣寺」、いよいよ来る2012年1月〜2月、日本凱旋公演として上演！どうぞご期待下さい
今回少し真面目に語ってしまうと、本来、偏屈で執着心が強い男であろうはずの溝口が、とても魅力的に思えてきたのが、意外だった。
決して他者をそのまま受け入れず、その反面、他者に対し、自分を受け入れてもらいたがっている、そんな溝口なのだが、頑なまでに自らの意思を通そうとする姿勢に「潔さ」のようなものを感じてしまったのだ。
そして、変わろう、とは思うものの、親のこと・将来のこと・友人のことなど、自分ではどうにもできない不可抗力なものに抗うことはできず、もがけばもがくほど空回りして、落ちていってしまう、そんな姿が、なぜか今の世相と重なっても見え、共感を覚えてしまったのも事実だ。
自分が絶対だと信じてきた金閣寺を焼き払うことは、溝口にとって、そんな変えることができない自分自身や、自分を取り巻く今まで生きてきた世界をリセットし、新たな価値観の中へ身を置こうという気持ちだったのか、それが最後の「生きよう」という溝口の台詞の意味なのか、などとも考えてしまった。
＜出演者＞
森田 剛 ：溝口
高岡蒼甫 ：柏木
大東俊介 ：鶴川
中越典子 ：有為子／美しい女／生け花の師匠
山川冬樹 ：鳳凰
瑳川哲朗 ：道詮和尚
高橋長英 ：溝口の父／禅海和尚
大西多摩恵：溝口の母
花王おさむ：副司
大駱駝艦（田村一行 湯山大一郎 若羽幸平
橋本まつり 小田直哉 加藤貴宏）
岡田あがさ
三輪ひとみ
音 楽 ： ★★★☆☆
脚 本 ： ★★★☆☆
演 出 ： ★★★☆☆
役 者 ： ★★★★☆
舞台/衣装：★★★☆☆
満足度 ： ★★★★☆
