グランプリシリーズ:グランプリファイナル

フィギュアスケート:GPファイナル 手堅く安藤、逆転で織田 五輪代表に内定


グランプリ(GP)シリーズ上位6人・組によるGPファイナルは最終日の5日、東京・代々木第1体育館で男女とペアのフリーを行った。


女子シングル


女子はショートプログラム(SP)首位の安藤美姫トヨタ自動車)が計185・94点で2位、SP5位の鈴木明子(邦和スポーツランド)が計174・00点で3位に入った。安藤は出場5回目で初のメダル獲得で、バンクーバー五輪代表に内定した。SP2位の金妍児キム・ヨナ、韓国)が計188・86点で2年ぶり3回目の優勝を果たした。


◇あきらめず、ヨナV


女子は金妍児が逆転優勝。朝の練習中にスケート靴がぶつかり左の刃が削れるアクシデントがあった影響か、演技冒頭の3−3回転連続ジャンプが3−2になる場面もあったが、大きく崩れることなく、SP1位の安藤を逆転した。「非常に苦しい試合だった。あきらめず演技したのが良かった」と、ホッとした表情で2年ぶりの優勝を振り返った。昨季、世界選手権と4大陸選手権を制し、世界をリードする存在になった。


◇3位の鈴木「幸せ」


初のGPファイナル出場で表彰台に立った鈴木は、会心の演技を終えると両手で顔を覆ってから天を仰いだ。「硬くなったが、一通りうまくいった」というジャンプに加え、「ミュージカルを頭に浮かべて演技できた」というウエストサイドストーリーの調べに乗った滑りも、リズム感があった。安藤に抜かれて今大会での五輪切符獲得は逃したが、「金妍児さんと安藤さんと肩を並べることができて幸せ」と喜びをかみしめた。


◇4年間の成長表現


トリノ五輪の屈辱から4年近くがたち、安藤は強くなった。優勝こそ逃したものの手堅い演技で2位に入り、バンクーバー五輪行きを決めた。


冒頭の3−3回転連続ジャンプは3−2回転に自重し、続くダブルアクセル(2回転半)−3回転トーループも二つ目を2回転にする安全策。だが、中盤に得意の3回転サルコウは軸がぶれ、回転不足で手をついた。「体力不足でスピードがなかった。サルコウはフェンスによりすぎて詰まった」と悔やむ。ただし、ミスはそれくらい。以前の波が激しい欠点は消え去り、安定感抜群の今季の安藤らしい演技だった。


今季のロシア杯、NHK杯、東京でのGPファイナルと続く日程は、不振だった4年前と全く同じで、「気持ちに余裕がなかった」と明かす。15位と惨敗したトリノ五輪後は人気が急落し、周りから多くの人が去った。「4年前のつらさを乗り越えたから今がある」と安藤。今季はミスが出ても集中力を切らさず、崩れなくなった。「選手としての自覚を持ち、演技をしっかりやるのが自分の仕事」と思い定めている。


GPファイナルは出場5回目で初のメダル獲得。「五輪内定よりそっちがうれしい」と笑う。「トリノは自己満足で終わった。今回は応援してくれる人の気持ちを演技に込めれば、結果はついてくる」。メダルの夢を4年近く持ち続けてきた安藤が、夢の舞台への扉を開いた。【来住哲司】


男子シングル


男子はSP3位の織田信成(関大)が計243・36点で2位に入り、3位だった06年以来2個目のメダルを獲得、バンクーバー五輪代表に内定した。SP2位のエバン・ライサチェク(米国)が計249・45点で逆転で初優勝。3位にはSP4位のジョニー・ウィア(米国)が237・35点で入り、SP首位だった高橋大輔(関大大学院)は計224・60点の5位に沈んだ。


◇勝負徹し、宿敵破る


演技後、会場の大スクリーンに映し出された織田の表情が、すべてを物語っていた。前半に予定していたトリプルアクセルに失敗し、終盤にはダブルアクセルでも大きなミス。まったく感情のこもっていない顔から、充実感は伝わって来なかった。


ところが、SPで1位だった高橋の出来が今ひとつ。ジャンプ以外の部分を手堅くまとめた織田が、2・30点差をはね返して2位になり、バンクーバー五輪への切符を手に入れた。織田が高橋に勝ったのは、05年のNHK杯以来のことだ。


日本人トップになって表彰台に立てば、バンクーバー五輪出場が内定する大会。大切な舞台で7連敗中のライバルを破るため、織田は勝負に徹することを選択した。「完ぺきな演技をしたかったから」と、3月の世界選手権で成功させた4回転ジャンプを回避。これは、五輪切符獲得を最優先する今季、貫いてきた戦い方でもあった。


日本のフィギュア勢で代表一番乗りを果たし「しっかり練習して、いい演技をしたい」と話した織田。「バンクーバーでは4回転ジャンプに挑戦したい」。本番は2月だと意識している。レベルアップに専念できる2カ月余りの時間を手に入れたことは、織田にとって大きな意味がある。【栗林創造】


◇高橋、ミス重ね5位


SP首位の高橋は崩れて5位に転落。冒頭の4回転トーループで転倒し、トリプルアクセル(3回転半)もパンクなどジャンプミスを重ねた。さらに「頭が真っ白になって、次に何をするか忘れてしまった」と、前半のフライング足替えキャメルスピンの姿勢の変化にまごついて中途半端な体勢となり、連続スピンと認定された。このため終盤の連続スピン二つは同じ要素の繰り返しの規定違反とされ、加点ゼロ。「緊張感に勝てなかった」と悔やんだ。五輪内定を逃したことには「何とも思っていない。全日本選手権できっちり決めたい」といい、「織田君には『おめでとう』と言いたい」と後輩を祝福した。


ペア


ペアはSP首位の申雪、趙宏博組(中国)が計214・25点で3年ぶり6回目の優勝を飾り、SP6位の川口悠子アレクサンドル・スミルノフ組(ロシア)は計183・01点で3年連続5位だった。


フィギュアスケートの日本の五輪出場枠は男女各3枠、アイスダンス1枠。日本スケート連盟は今大会男女の日本勢最上位メダリストを、全日本選手権(25〜27日、大阪・なみはやドーム)出場を条件に五輪代表に内定すると決めていた。全日本選手権の成績などを踏まえて選考する残りの代表とともに、27日の理事会で正式に決まる。


毎日新聞 2009年12月6日 東京朝刊)

フィギュアスケート:GPファイナル 織田選手、ご先祖に代わり「天下布武」を


◇夢五輪 攻めて決めよう ホトトギス


信長の子孫が五輪に出陣−−。5日に東京・代々木第1体育館で行われたフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルで、男子は織田信成選手(22)が日本人最高の2位に入り、来年2月のバンクーバー冬季五輪代表に内定した。5位のライバル高橋大輔選手(23)を抑えて初の五輪切符。戦国武将、織田信長の17代目の末裔(まつえい)にあたる織田選手は「この4年間、五輪のことだけ考えてきた。うれしい」と感極まった。


前回06年トリノ五輪の選考を巡って、苦い思い出がある。五輪代表が決まった05年12月の全日本選手権で、いったんは優勝者として表彰された後、得点集計ミスを理由に2位となり、結果的に代表から漏れて涙に暮れた。その後着実に力をつけ、06年の4大陸選手権で優勝したが、今度は07年に酒気帯び運転容疑で検挙され、日本スケート連盟から出場停止の処分を受けた。「2年前が一番きつかった」と振り返る。


この日はチャプリン・メドレーで場内を沸かせたが、4回転ジャンプを封印したこともあり「守りに入った」と満足はしていない。今年6月には京都の本能寺を訪れ、信長の墓前で「天下統一の夢が破れた先祖の思いを継ぎたい」と誓った。五輪の舞台では「4回転を決めたい」。攻めるつもりだ。【高橋秀明


毎日新聞 2009年12月6日 東京朝刊)



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