Cali 炎の女カルメン
天王洲銀河劇場にて TSミュージカルファンデーションの「Cali 炎の女カルメン」を観る。
この作品の見所は、2幕の中盤以降。
カルメンの作家メリメの息子ジャン(今拓哉)とオペラ「カルメン」の作曲家ビゼー(土井勝海)が語り部となって、カルメンの世界を紡ぎだす、、、という構成で、この2人(主にビゼー)によって語られるカルメンの世界は、既存のカルメンの世界に過ぎない。
だが、この既存のカルメンの世界が語り終わるとき、ひとつの世界観の展開(起承転結の「転」)が訪れる。カルメンを殺したホセは実はまだ生き残っており、名を変え、ビゼーとなって、オペラを作曲したというのだ。それが2幕の中盤なのである。
そしてこの後の展開が、このミュージカルの醍醐味だ。カルメンと(ホセが殺した)3人の亡霊の呪いにより死ぬことなく生かされてきたホセ(ビゼー)だが、ジャンに会うことによって、今まで知ることがなかったカルメンの新たな一面を知ることとなる。
ジャンによって語られるカルメンとは、既存の「強かで恋に生きる」ファムファタールの象徴のような女性ではなく、狭義があり、自由奔放ながらも、ホセを一途に愛した賢い女性、として描かれているのである。そして、その新たな一面を知ったとき、ホセ(ビゼー)はカルメンの呪縛から解かれ、その生涯を終える。。。
脚本は面白かったのだが、この作品を通して訴えたかった点が2幕の後半以降という、全体的名配分が少し気になった。約7割が既存のカルメンの世界描写になってしまっているので、もったいないなあ、と思う反面、カルメンを知らない人にとっては、その前半の部分がないと、この作品で訴えたいことが活きてこないわけで、なかなか難しい。
キャストは以下の通り。
<キャスト>
カルメン: 朝海ひかる
ガルシア: 天宮 良
ジャン: 今 拓哉
ビゼー: 戸井勝海
スニーガ: 宮川 浩
ホセ: 友石竜也
ヘンリー: 野沢 聡
ダンカイーレ:平野 亙
レメンダード:良知真次
オマール: 東山竜彦
ファニト: 三浦涼介
紅一点の女性が宝塚キャストで、その他は演出家謝珠栄が信頼を置く、男性キャスト、というTSの基本的な構成は変わらず。
今回の収穫は、ホセ役の友石竜也。元劇団四季の人で、ライオンキングのシンバ役などを務め、退団後の初ミュージカル出演ということだ。 風貌は純2枚目というわけではないと思うが、その甘い歌声や、熱い演技を通じて、彼の演じる人物の感情が、押し付けがましくなく、スッと観客にストレートに伝わってくる点は大きな才能だと思う。今後の活躍に期待大。
カルメン役に元宝塚トップスターの朝海ひかる。いわゆる典型的な男役ではなくフェアリータイプの男役であった点が、退団後には逆に生きている気がする。特に苦労することなく、女性の役を演じられるから、だが、凛として力強い女性を演じるには、元男役の経験が存分に活かされていたように思う。在団当時からダンスの名手といわれただけあってダンスは上手いのだが、その声質・歌唱力とも(周りが実力派揃いなだけに)、若干不安要素が残った気はする。
土井・今が歌唱力・演技力で舞台を引き締め、カルメンに恋をした男性3名を雨宮、宮川、野沢が各人の良さを活かしながら演じていき、フラメンコ調のダンスは平野・良知・東山・三浦+朝海が担う。。。という適材適所の役者の使い方は謝ならではの演出だろう。
ラストに向かって感動が増してく展開ではあり、作品の持つテーマ性も良いと思う。あとは時間配分等や空間の使い方など、もう一工夫すればさらに良い作品になるだろうな、というのが本作品を観た感想だ。
音 楽 : ★★★☆☆
脚 本 : ★★★☆☆
演 出 : ★★★☆☆
役 者 : ★★★★☆
舞台/衣装: ★★☆☆☆
満足度 : ★★★★☆