世界選手権

女子SP 美姫、67.98点で2位


フィギュアスケートの世界選手権は第4日の23日、女子のショートプログラム(SP)があり、全日本選手権2位の安藤美姫トヨタ自動車)が67・98点で2位につけた。今季グランプリ(GP)ファイナル2位の浅田真央(愛知・中京大中京高)は61・32点で5位、前回5位の中野友加里早大)は60・62点で7位。今季GPファイナル女王の金妍児(韓国)が国際スケート連盟公認の女子歴代最高となる71・95点で首位に立ち、2連覇を狙うキミー・マイズナー(米国)は4位。アイスダンスはフリーが行われ、オリジナルダンス(OD)まで16位の渡辺心木戸章之組(新横浜プリンスク)が計152・21点で15位。ODまで首位のアルベナ・デンコワ、マキシム・スタビスキー組(ブルガリア)が計201・61点で2連覇を飾った。24日は女子のフリーが行われる。


◇渡辺・木戸組、ラスト感涙の15位: 人の欲にはきりがない

コンビ結成13年目の渡辺・木戸組は2年前の16位を上回る自己最高の15位に入り、現役最後の試合を終えた。大きなミスなく滑りきり、演技直後は2人とも感極まって涙を流した。木戸は「引き揚げてから反省点が次々浮かんできた。人間の欲望はきりがない」と努力家らしいセリフ。今後、木戸は運動生化学を学ぶため筑波大大学院に進む予定で、渡辺は指導者を目指すという。


============== 
アイスダンス

(1)アルベナ・デンコワ、マキシム・スタビスキー(ブルガリア)201・61点
(規定37・42、OD62・10、フリー102・09)
(2)デュブリュイル、ローゾン(カナダ)200・46点
(38・96、60・54、100・96)
(3)ベルビン、アゴスト(米国)195・43点
(37・17、61・85、96・41)
(15)渡辺心木戸章之(新横浜プリンスク)152・21点
(28・46、47・27、76・48)

==============


◇歴代最高点で魅了

GPファイナル女王の金妍児が71・95点を出してSP首位。サーシャ・コーエン(米国)が03年スケートカナダで出した71・12点を上回る女子歴代最高だ。最初の3−3回転連続ジャンプは抜群の美しさで、イナバウアーからのダブルアクセル(2回転半)でも観客を魅了。「スパイラルで少しバランスを崩したので、期待以上の点数でうれしい」と笑顔を浮かべた。


腰のヘルニアについては「来日直後は痛かった。前日から痛みが消えたが、油断しないようにしたい」と不安を残しているが、フリーに向けて「ベストを尽くし、結果に欲を出したい」と初出場初優勝を誓った。


◇ジャンプで「あっ」

初優勝の期待がかかる浅田は、冒頭の3回転ルッツを決めたが、続く3回転フリップ−3回転ループの連続ジャンプで、ループが1回転となるまさかのミス。不本意な演技で5位と沈み、今季、Spで首位を逃したのは5試合目で初めて。ジャンプの失敗について、「フリップの後の踏み切りが一歩遅れてしまった」。ライバル・金には10・63点の大差をつけられ、目標の200点台での初優勝も厳しくなってきた。それでも浅田は「パーフェクトな演技で200点台を出したい」と強気に締めくくった。


◇自己ベスト「次は4回転」

世界女王の座が視界に入ってきた。前回優勝のマイズナーが自己ベストを更新しても4位止まりというハイレベルな争いの中、安藤が完ぺきな演技で2位につけた。


冒頭に3回転ルッツ−3回転ループの大技を決め、続く3回転フリップも成功。ストレートラインステップに入る直前、「シェエラザード」の曲に合わせて「シェエラザードのお姫さまになった気分で表情を作った」という微笑を浮かべた後、両手を大きく動かしながらステップを踏み、観客の手拍子を誘った。最後はI字スピンで締め、自己ベスト(67・52点)更新の67・98点を出した。


昨年12月下旬の全日本選手権で右肩を負傷し、2週間は練習はもちろん、寝返りもうてなかった。今大会前にスケート靴が合わず、ジャンプ練習も不十分。「体力面の不安があり、緊張していた」と明かす。右肩の影響でビールマンスピンも封印せざるを得ない状況にも、「今の自分ができることをしよう」と自らに言い聞かせた。重圧に負けて15位と惨敗したトリノ五輪当時とは別人のようなたくましさ。五輪後は食生活を管理して体を絞ってきたが、世界選手権の大舞台で見事にトリノの汚名を返上した。


「東京の世界選手権で自己ベストを更新できてホッとした」と、久しぶりに笑顔を振りまいた安藤。フリーに向け「今季最後の試合なのでやりたい」と、4回転サルコウ挑戦を宣言。心身両面で成長した安藤が、女子で世界唯一の大技で金メダルを狙う。


【来住哲司】


==============
▽女子ショートプログラム(SP)

(1)金妍児(韓国)71・95点
(2)安藤美姫トヨタ自動車)67・98点
(3)コストナー(イタリア)67・15点
(5)浅田真央(愛知・中京大中京高)61・32点
(7)中野友加里早大)60・62点
==============


毎日新聞 2007年3月24日 東京朝刊)



美姫2位 フリー4回転で逆転だ


フィギュアスケートの世界選手権第4日は23日、東京体育館で女子ショートプログラム(SP)が行われ、安藤美姫(19=トヨタ自動車)がほぼ完ぺきな演技で自己ベストの67・98点を出し、2位につけた。SP世界最高の71・95点をマークして首位に立ったキム・ヨナ(16=韓国)との差は3・97点。逆転金メダルを懸け、24日のフリーで4回転サルコーに挑む。浅田真央(16=中京大中京高)は連続ジャンプで失敗し、5位と出遅れた。


氷上で安藤の表情がほころんだ。「シェエラザード」に乗った2分50秒。演技終了後、得点を待つキス&クライで投げキスまで披露した。世界最高を出したキム・ヨナには及ばなかったが、67・98点は自己ベスト。普段より弾んだ声が、感激の大きさを物語っていた。


「緊張の中であれだけの演技ができた。凄くうれしかった」。冒頭の3−3回転を決めて流れに乗った。最初のスピンがレベル2だったことを除けば、ほぼ完ぺきな演技だった。昨年末の全日本で右肩を痛め、直前合宿では右足かかとに激痛が走った。顔に吹き出物が出るのも構わず、抗生物質を飲んだ。金に3・97点差に食らいついた。


注目された06年トリノ五輪は15位。だが、安藤に対する評価は変わらなかった。米国の練習リンクにファンが押し寄せ、世界選手権を特集する米国の専門誌の表紙を、浅田真央とともに飾った。フィギュア大国でも認められた存在になった。


今季は、幼いころに指導を受けた門奈コーチのもとで、ジャンプにも磨きをかけてきた。ジャンプが代名詞の安藤の原点回帰。その成果を試す時が絶好の形で訪れた。フリーでは、03年12月の全日本選手権以来、公式戦で成功していない4回転サルコーが、逆転優勝への最大の武器となる。


3・97点の小差を考えれば、4回転抜きでも逆転の可能性はある。それでも安藤は言う。「3回転の方が無難かもしれないけど、ここがゴールじゃない。シーズン最後の試合なんで、4回転をぜひ入れたい」。トリノで跳べなかった4回転の成功と世界選手権初優勝。安藤が誰よりも高く舞った時、2つの夢は達成される。


スポーツニッポン 2007年3月24日)

真央ミスも「200点台出したい」


浅田は重圧に押しつぶされた。3回転ルッツを決めた後の3回転フリップ−3回転ループ。フリップが回転しすぎて、ループを跳ぶタメをつくれなかった。「ループで一歩踏み込みが遅かった」。3回転が1回転になり、これだけで7・5点も失った。地元開催、金らライバルの高得点と重圧が重なった。自己ベストの69・50点に遠く及ばない61・32点。金に10・63点もの大差がついた。


「足が震えるような緊張はなかったけど、もっと気持ちを強く持った方がよかった」。控室で、左足からスケート靴を履いた。試合前日でも「チョコレートを食べて、友達とおしゃべりして、普通に寝ます」と言う浅田のただ1つの“願かけ”だ。04年から続けている儀式も重圧を軽くしてはくれなかった。


上位陣のミスを待つ身となった浅田にできるのは、完ぺきに演技をすること。トリプルアクセル(3回転半)、3−3回転、ダブルアクセル(2回転半)−3回転トーループ…。「きょうのことは忘れてパーフェクトな演技をしたい。頑張ってトリプルアクセルを跳んで、200点台を出したい」。言われなくても、16歳は分かっている。


スポーツニッポン 2007年3月24日)