世界選手権

男子フリー 高橋、男子史上初の銀


フィギュアスケートの世界選手権は第3日の22日、東京体育館で男子のフリーが行われ、ショートプログラム(SP)3位の高橋大輔(関大)はフリー1位となり、計237・95点で銀メダルを獲得した。世界選手権で日本男子がメダルを獲得したのは、77年大会の佐野稔、02年、03年大会の本田武史に続き3人目(4度目)で、2位は史上最高。SP首位のブライアン・ジュベール(フランス)が計240・85点で初優勝し、3連覇を狙ったSP6位のステファン・ランビエル(スイス)が3位に入った。SP14位の織田信成(関大)は7位。この結果、日本の次回大会出場枠は、82年大会以来となる3枠となった。


アイスダンスオリジナルダンス(OD)で、規定15位の渡辺心木戸章之組(新横浜プリンスク)は計75・73点で16位に下がった。2連覇を狙う規定2位のアルベナ・デンコワ、マキシム・スタビスキー組(ブルガリア)が計99・52点で首位に立った。第4日の23日は女子のSP、アイスダンスのフリーが行われる。


◇“ガラスの心”ついに克服

「ガラスの心臓」と評され、大舞台で期待を裏切り続けてきた高橋が、ついに結果を出した。それも日本男子選手として史上最高の銀メダルだ。


冒頭の4回転トーループは着氷で手をついたが、「先のことを考えよう」と気持ちを切り替え、ジャンプを次々決めていく。後半は疲れからスピードが落ち、スピンは回転不足だったが、大きなミスはない。終盤、得意とするストレートラインステップの見せ場が近づくと、待ちきれない観客から早くも大歓声がわき起こった。情感豊かな演技で応えた高橋。見る者を身震いさせる「オペラ座の怪人」を演じ切った瞬間、「ホッとした」と泣き出した。


「緊張で、滑る前から泣きそうだった」と打ち明ける。1年前のトリノ五輪ではフリーでミスを重ね、メダルを逃した。「経験、自信、度胸もすべて足りず、五輪で滑るにはすべてにおいて未熟だった」と振り返る。苦い経験を重ねて「緊張感をうまく利用できるようになった」。滑る前に「今までやってきたこと、自分を信じて、自信を持って堂々としよう」とつぶやきながら、重圧に立ち向かった。


演技後、長光歌子コーチ、ニコライ・モロゾフ・コーチと抱き合って号泣。「人生で初めて」といううれし泣き。経済的な理由や伸び悩みなどで何度となくスケートを断念しかけたが、そのたびに長光コーチから慰留された。関係者のだれもがその才能にほれ込んだ逸材が、「金メダルを狙う」と宣言するバンクーバー五輪に向け、確かな一歩を踏み出した。【来住哲司】


ジュベール悲願の金

過去2度銀メダルのジュベールが初優勝を飾り、男子のフランス勢では65年のアラン・カルマ以来の世界王者になった。冒頭に4回転トーループを決めた一方、二つのスピンが最低のレベル1と認定されたが、SPの貯金で逃げ切った。


◇点数よりも気持ち

渡辺、木戸組は規定の15位からODで順位を一つ落とした。タンゴ曲に乗り、独創的なリフトを見せたが、表現力などを問うプログラム構成点が低かった。それでも、木戸は「気持ちよく滑れた」と満足そう。現役最後の試合になるフリーに向けて、渡辺は「滑らかな滑りをしたい」と抱負を述べた。


(毎日新聞 2007年3月23日 東京朝刊)

4回転、こだわって ジュベール、今季出場全試合V


フィギュアスケートの世界選手権の男子(22日・東京体育館)で、22歳のブライアン・ジュベール(フランス)が初優勝した。今季はグランプリ(GP)ファイナルやヨーロッパ選手権をはじめ出場全6試合で優勝する快挙を果たした。


男子のフランス勢として65年のアラン・カルマ以来42年ぶりの王座奪回にジュベールは「長すぎたと思う」と感慨深げ。自身も17歳で02年世界選手権に初出場し、03年6位、04年2位と順調に成長したが、そこから王座への道のりは長かった。


4回転ジャンプを武器に男らしく力強い演技が持ち味。だが、05年の新採点方式導入後は、リスクの高い4回転を回避し、しなやかな表現力を持つタイプが有利になった。ジュベールは4回転にこだわったが、05年世界選手権、06年トリノ五輪とも6位にとどまった。


今季は苦手なスピンを克服し、表現力も進歩。昨年11月のロシア杯フリーでは2種類3度の4回転ジャンプを入れ、今大会はショートプログラムで4−3回転連続トーループを決め、ライバルたちに差をつけた。かつて02年ソルトレークシティー五輪優勝のアレクセイ・ヤグディン(ロシア)を信奉するあまり、「ヤグディンのコピー」とやゆされたが、今は貴重な個性を発揮している。


「4回転時代」への移行は新採点方式導入で一時止まったものの、今季は跳ぶ選手が再び増えてきた。新時代の旗手の代表格として「フィギュアの未来を考えると4回転は大事。採点方式が今後どう変わるか分からないが、挑戦していく姿勢が大切だ」と力説する。


【来住哲司】(毎日新聞 2007年3月23日 東京夕刊)