世界選手権

安藤金・浅田銀 ミキティ復活 心身両面で成長


◇まさかの転倒、金3位

日本勢が地元開催の舞台で表彰台に並んだ。東京体育館で24日行われたフィギュアスケート世界選手権の女子フリーで、ショートプログラム(SP)2位の安藤美姫トヨタ自動車)が逆転で初優勝。伊藤みどり(89年)、佐藤有香(94年)、荒川静香(04年)に続く日本人4人目の世界選手権金メダリストになった。


19歳3カ月の安藤は伊藤の19歳7カ月を下回り日本女子選手最年少での「世界女王」。SP5位の浅田真央(愛知・中京大中京高)は、フリーでトップの得点をマークし、銀メダルを獲得した。SP首位の金妍児キム・ヨナ)=韓国=が3位に入り、大会史上初めてアジア勢が表彰台を独占した。米国勢が女子でメダルを逃したのは94年以来。前回優勝でSP4位のキミー・マイズナー(米国)は4位、SP7位の中野友加里早大)は前回と同じ5位だった。


今大会で日本勢は史上最多の3個(男子銀1、女子金、銀各1)のメダルを獲得した。25日はエキシビションが行われる。


◇心身両面で成長

トリノ五輪15位から、1年で日本人4人目の世界女王へ。安藤が素質を開花させ、飛躍を遂げた。重圧がかかる最終24番滑走。「滑る前は浅田選手が自己ベストを出した放送が聞こえたりして、すごく緊張していた」と打ち明けたが冒頭、3回転の連続ジャンプでは最も難度の高い3回転ルッツ−3回転トーループの大技を成功させた。昨年12月の全日本選手権で痛めた右肩が完治していないため、4回転サルコウには挑まなかったというが、ほぼノーミスで滑りきった。前日のSPに続き、この日も自己ベスト(125・85点)を上回る127・11点。逆転優勝に「言葉にならないくらいうれしい。表彰台の一番上に立てるとは思わなかった」と涙を流した。


今季は不振からの復活を目指した。2年前から人気が急に高まり、競技以外のことでも興味本位に報じられ、傷ついたこともあった。「自分を見失ってしまった」と感じるときも。05年春には拠点を米国に移したが練習に集中できず、不振は続いた。トリノ五輪惨敗後の昨春、8歳から4年間教わった門奈裕子コーチの元に戻ってジャンプを一から作り直した。「最初は2回転も跳べなくなった」と振り返るが、基礎に立ち返ったことで、踏み切りの際に体が斜めに傾き、回転軸がぶれる欠点を解消した。


毎日8時間練習し、食生活も徹底的に管理した。「五輪後、本当につらい時期があったが、みんなに支えられた」。心身両面で成長し、人気先行型から実力派へ。「今後は自分を甘えさせず、4回転も入れていきたい」。挫折を乗り越え来季へ、バンクーバー五輪へ、強い決意を示した。【来住哲司】

 
中野友加里

3回転半は練習で跳べていたので、迷わず挑戦した。転倒した後は丁寧に滑ろうと思った。スピンでミスをしたのは悔いが残る。


◇ミスで足の力抜け

SPでは女子歴代最高点をマークして首位に立った金妍児が、この日は3回転ジャンプで2度も転倒するなど精彩を欠いて3位。演技後、「腰の痛みはなかったが、足が重かった。ミスをして足の力が抜けた」と淡々と振り返った。故障の影響で大会直前に十分に滑り込むことが出来ず、2分50秒のSPは何とか滑りきったものの、フリーの4分間は体力が続かなかったことを敗因にあげた。来季は新技の習得より「体の管理を徹底してケガをなくし、体力を補強したい」と話した。

 
◇真央、みどり以来の大技決めた−−女子フリー最高を更新

演技後、両手を高々と上げた。直後に観客へ手を振る時には泣き出していた。5位と出遅れた前日のSPの失敗から立ち直り、逆転で銀メダルを獲得した。


「メダルを取るにはノーミスで自己ベストを出すしかない」。冒頭、軽くステップを踏みながらトリプルアクセル(3回転半)に挑んだ。両足着氷気味だったが、3回転半を回りきって降り、世界選手権では89年パリ大会の伊藤みどり以来の大技を成功させた。続く連続ジャンプは二つ目が回転不足だったが、その後はノーミス。イリーナ・スルツカヤ(ロシア)が05年ロシア杯で出した130・48点を上回り、フリーの女子歴代最高を更新する133・13点を出した。


「2位になった時は悔しかったが、でも今はうれしい」。SPで10点余りの差をつけられた金妍児を逆転するあたりはさすが。技術に加え、精神面も一級品であることを示した。【来住哲司】


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 ▽女子最終成績

(1)安藤美姫トヨタ自動車)195・09点(SP67・98点、フリー127・11点)
(2)浅田真央(愛知・中京大中京高)194・45(61・32、133・13)
(3)金妍児(韓国)186・14(71・95、114・19)
(5)中野友加里早大)168・92(60・62、108・30)

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世界フィギュアでの日本のメダリスト◇

77年 東京     男子銅 佐野稔
79年 ウィーン   女子銅 渡部絵美
89年 パリ     女子金 伊藤みどり
90年 ハリファクス 女子銀 伊藤みどり
94年 千葉     女子金 佐藤有香
02年 長野     男子銅 本田武史
02年 長野     女子銅 村主章枝
03年 ワシントン  男子銅 本田武史
03年 ワシントン  女子銅 村主章枝
04年 ドルトムント 女子金 荒川静香
06年 カルガリー  女子銀 村主章枝
07年 東京     男子銀 高橋大輔
07年 東京     女子金 安藤美姫
07年 東京     女子銀 浅田真央


毎日新聞 2007年3月25日 東京朝刊)