キャバレー


ブロードウェーミュージカル『キャバレー』見てきました。最終日の前日、土曜日の夜の部、ということで、会場は満員。結構ゴージャスな感じでした。


諸事情から入手したチケットは、幸運にもおそらく関係者用にキープしていたと思われる、前からセンター列3列目の端席でした。真後ろはキャバレーのパンフレットにも登場している筑紫哲也氏、横は舞台女優の人という、結構恵まれた席でした。


ここで座席について一言。。
ブロードウェーの引越し公演ということで、上演は英語の台詞で行われ、英語を理解できない人のために、舞台 左右横にある字幕スーパーに翻訳が表示されます。前から3列目だと、舞台横の字幕を見ると舞台そのものが見えないため、周りの人は左右の字幕と正面の舞台とを交互に見ることになり、きょろきょろと首を振って大変そうでした。


英語を理解できると、意外な場所で得をするもんです。京劇・オペラなども同じようなかんじなので、席を取る際には気をつけましょう。


まあ、そんなハンデを除いても、俳優一人一人の表情とか、かいている汗が噴き出す様子がわかる好位置であることには変りなく、舞台関係者にとっては、とても勉強になる座席だったんだろうなあ、ということは言えます。


さて、肝心の舞台の方ですが、まずはストーリーを。ちょっとホリプロのオフィシャルHPからストーリーを拝借。


時は1929年、ヒトラーが凄まじい勢いで勢力を拡大している最中のこと。
ドイツ・ベルリンに一つのキャバレーがあった。その名も「キット・カット・クラブ」


暗雲立ち込める世界情勢をまるで無視するかのように、そこでは、人間の欲望剥き出しの 刹那的な日常が毎晩、繰り返されていた。


セクシーなバイ・セクシャルのMCが、今宵も「キット・カット・クラブ」の猥雑なショーの幕開けを告げる。ベルリンにやってきたばかりの売れないアメリカ人作家クリフは、キャバレーのスター、サリー・ポウルズのはかない美しさに一目ぼれ。いつしか恋仲になる。


クリフが住処に定めた下宿の初老の女主人シュナイダーは、心優しいユダヤ人シュルツといつしか二人で生きていこうと考える。


ベルリンにふらりと訪れたアメリカ人作家クリフが(本来の)主人公で彼がベルリンにやってきて、そしてベルリンを去るまでの話が描かれています。


見た方はわかると思いますが、主に2つの舞台が入れ替わり展開する構成になっています。
  ①キャバレーの舞台
  ②作家クリスが間借りするアパート


そして、
  ①キャバレーの舞台では、レヴュー(歌・踊り)が、
  ②アパートではストレートプレイが、
それぞれ楽しめるのです。


こういう構成のミュージカルは初めてだったので、なかなか面白い演出だな、と思って見てました。


ストーリーの展開自体はドラマチックでなないので、派手さはなく面白味に欠けるものの、その舞台設定として切り取られた空間(時間と場所)に、この作品のメッセージが込めらており、それがこの作品の一つの「味」(特徴)なのだと思います。


1929年、ヒトラーユダヤ人、ベルリン。。。
ストーリーで登場しているこれらの言葉から想像できるとおり、この作品の中でナチズムというものが重要な位置を占めています。


これは主にストレートプレイのシュナイダーとシュルツ氏の恋愛劇の中で語られるのですが、そこには恋をすることの喜びがあったり、ユダヤ人に対するドイツ国民の扱いがあったり、ナチのユダヤ人に対する迫害を思い起こさせる重いテーマも同時に含んでいました。
#ただ楽しいだけのミュージカルではないのですね。


そしてライザ・ミネリの映画で有名になったとおり、キャバレーと言えば、歌と踊りとあの退廃的な空気。こうした雰囲気はキット・カット・クラブの場面で十分に堪能できます。


ただ、残念なのが、サム・メンデス演出版の今回のミュージカルの主役ともいうべきMCが
アラン・リードではなかったこと。キャバレーをリバイバルするにあたり、演出家のサム・メンデスアラン・リードを想定してMC役を作り上げた、とまでいうくらいですから、その演技は見事なものだったと思います。グラミー賞の授賞式中継やCDなどで彼の演技を観たり聴いたりしたことはあるのですが、一度生の舞台を見てみたかったですね。


バイセクシャルであるMCが持つ妖艶さ、猥雑さ、狡賢さみたいなものが今回のMC役の役者だと少し足りないかな?という印象を受けました。(特に中性的・両性具有的な妖しさが。。 まあ、そんな妖しさを持っている人も少ないでしょうけど)

ただ、このMC役は本当に難しい役だと思います。
日本で上演するなら誰だろう?三輪明宏って思ったけど、ちょっとお歳を召されているので及川ミッチー? でも、彼だと、毒々しさが足らない気がする。MC役って夜に咲く不思議な花とか、熱帯雨林に咲く鮮やかだけど近寄ると毒を持っている花とか、そんな印象の人じゃないとなかなかつとまらないような気がします。


あと一つ、今回のキャバレーの特筆すべきところは、役者が演技・ダンス・歌・そして楽器まで弾くことでしょう。舞台上に設けられたオケピット、よくよく見ると舞台の登場人物が実際の楽器を奏でています。先程まで踊っていたダンサーが次の場面ではトランペットを吹き、
また次の場面ではコーラスで歌っている、という具合に。


歌良し、踊り良し、演技良し、ついでに楽器も弾ける、とならないとこのキャバレーの舞台は務められないのかあ、とビックリする次第です。
#それだけ、アメリカの役者の層が厚いのでしょう。


そしておそらくこのミュージカルを観た人なら、誰もがドキっとしたであろう、あのラストシーン。あれは恐かったね。あれは一体どんな意味なんだろう???ナチはユダヤ人のみならず、同性愛者への迫害も行っており、バイ・セクシャルのMCも、ユダヤ人同様の扱いを受けた、ということの暗示なのでしょうか?


しかし、あのラストは衝撃的で、恐すぎる。観劇後の後味がすごかったです。


ブロードウェー引越し公演の「キャバレー」というミュージカル、エンターテインメントという位置づけだと楽しめましたが、ハッピーエンドが好きな僕としては、なんかイマイチという感は拭えませんでした。


看板タレントの藤原竜也を起用して一時間番組を作成したホリプロの作戦勝ちか???


テレビ局(TBS)と芸能プロダクション(ホリプロ)がタイアップし、テレビ局の敷地にある劇場(赤坂ACTシアター)で上演というのは、なんだかとっても宣伝効果バリバリのものなんだなあ、と思いました。



音 楽 : ★★★☆☆
脚 本 : ★★★☆☆
演 出 : ★★★☆☆
役 者 : ★★★★☆
舞台/衣装:★★★☆☆
満足度 : ★★★☆☆