池田学展「焦点」

caltec2011-01-11



市ヶ谷にあるミヅマアートギャラリーにて「池田学展 「焦点」」を観る。2009年上野で開催された「ネオテニー・ジャパン 高橋コレクション展」にて関心を持った池田学。彼の新作展覧会が開かれるということで楽しみに臨んだ。


昨年の年末から今週までの会期ということで、展示作品は全て完売状態。小作品が多いということだったので、あわよくば購入を・・・と少し期待しながらの鑑賞だったが、一番いいなあと思った作品は「not for sale」(この作品のみ非売品)であったので、まあ、それはそれで仕方ないか。


彼の代表作「興亡史」は、画面のあちらこちらに、いろいろな要素が散りばめられていて観ていて飽きないが、本展覧会では22×27cmという小さなサイズになったことから、ひとつひとつの作品のテーマが明確になり、そこから発せられるイメージや、表現したいものがよりダイレクトに伝わってくる、そんな印象を受けた。

昨年はおぶせミュージアム・中島千波館(長野)にて美術館での初個展を成功させ、国内外様々な展覧会にも出品を重ねてきた池田。本展後には、文化庁の海外研修制度による1年間のカナダ滞在制作を控え、今後も更なる飛躍が期待されています。


「興亡史」(2006年)や「予兆」(2008年)など、大作のイメージが強い池田ですが、今回は全ての作品を22×27cmという小さな画面に描きました。小さなサイズを選んだことについて、「(これまでは)部分を積み上げ、外へ外へと膨らんでいくといったダイナミズムが面白かったが、内へ内へと入っていく世界にも大きな絵にはない面白さが潜んでいるのではないか」と新たな世界へのチャレンジを語っています。


そして今回、池田は「これまでの一つの大きな全体から小さな部分を覗き込む」のとは逆に、「小さな部分にも焦点を当て、そこから外に広がっている大きな世界を想像する」作品を制作しています。展覧会タイトルの「焦点」はここから着想されたものです。


新作の一つ「Gate」では、荒涼とした海原に突如として四角い“フレーム”のようなものが立ち上がり、フレームの内側には高速道路を走る車やビルの灯りが輝く都市の夜が潜んでいる様子が描かれています。灯台や釣り人などが描かれていることから、そのフレームは堤防であることが想像されますが、タイトルの通り、海原と都会という、相反する世界をつなぐ奇妙な「Gate」なのでしょうか。
この海原はどこに行き着くのか、フレームの向こうの都市ではどんな世界が広がっているのか・・イメージの断片には答えがない分、見たことのない風景の前で私たちの想像はどこまでも飛躍していけそうです。


子どもの頃から魚釣りや虫取りをして時を過ごすことが多かったという池田の作品には、彼にとって親しみのある“自然”がモチーフとしてよく描かれています。本作でも、自然が時に全く違う表情を人間に見せることを具現化し、新しい物語の世界を生み出しています。


また、先の細い丸ペンで1本1本描き込まれた線はさらに精度を上げ、まるで彫刻刀で画面を刻みこんでいくかのように立体的で繊細な質感を生み出しています。細かな線の積み重なりが細密画の作家と呼ばれることが多い所以ともいえますが、その卓越した技術力と共に、何よりも作品ごとに全く違う世界を描き出す池田のユーモアあふれる想像力と表現力に圧倒されることでしょう。


時を忘れ、純粋に「見る」行為の楽しさを教えてくれる池田の作品。今回は、一話一話が際立つ短編集のように、観る側に深い余韻を残す展覧会となることでしょう。


企画力  :★★★☆☆
展示方法 :★★★☆☆
作品充実度:★★★☆☆
満足度  :★★★★☆



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