レ・ミゼラブル
レミゼ発祥の地、ロンドンにてレミゼを観る。つい先月まで日本で観ていたので、どれくらい演出が違うのか注意してみた。
<日本版とロンドン版の演出の違い>
おおよそは日本と同じ演出になっていたが、大きく1点違う点があった。それは、、、
①アンジョルラスとコンビの関係性
日本では、理想に燃えるアンジョルラスと、酒を飲むグランデールの関係性は、完全にグラン→アンジョの一方通行的な友情だったように見えた。それはDrink With Meのナンバーでグランが差し出す酒をアンジョが断るところに表れている。ロンドン版では、驚いたことに、同ナンバーで、グランが差し出す酒をアンジョが飲み、その後、ガッシリと抱き合うのであった。。。。
そして、日本版では、アンジョがバリケードで死んだ後、死を悲しんだグランがアンジョの後を追い、、、という展開なのに対し、ロンドン版では、バリケードで打たれたアンジョをグランが助けに行き(2人はしっかりと手を握り合う)その巻き添いを食らう形でグランも死んでいく、、、というものだ。2人の間に揺ぎない信頼感のようなものが見える演出となっている。
逆に日本版では、アンジョ→マリウスの矢印に向いていた思いは、ロンドン版ではあまり強くない。
日本 :グラン→アンジョ→マリウス
ロンドン:グラン⇔アンジョ マリウス
といった感じだろうか?
他にもいくつか細かい違いがあった。
②プリュメ街での、コゼットVSエポニーニヌの女の戦い
コゼットの住むプリュメ街にマリウスを連れてきたエポニーヌ。日本版では、エポニーヌは影から2人の様子を伺うだけだが、ロンドン版では、門を境界にして2人の動きが完全なミラーリングをとる。
門をはさんで向かい会い、互いを見つめ驚くエポとコゼ。その後、愛するマリウスのいる方へと向かう(2人も同じ方向へ向かう)そしてまた元の位置に戻る。。
この一連の動作が合わせ鏡のようにまったく同じ動きをしていく。
同じ一人の男性を愛しながらも、門こちら側(コゼ)とあちら側(エポ)では、雲泥の差であるという点を表しているのかなあ、と勝手に邪推した。
他に違っている点は。。。
③ガブローシュが死ぬ前に歌う歌は、今までの日本語版「ちび犬でも。。」だった。
日本版では今年のバージョンから同歌がメロディ、歌詞共にガラリと変更になったが、ロンドンは旧版のままだった。
④バリケードでアンジョが死ぬ最後のハイライトシーンは、ロンドン版は、日本ほどアクロバティックではなかった。
⑤カフェソングで出てくる学生が戻るとき、日本語版は踵を返し後ろを向くが、ロンドン版はそのまま後ずさりしながらいなくなる。
⑥工場でファンテーヌを初めに揶揄する女性が日本語版とは違う。
日本では工場長に取り入る女性が歌うが、ロンドン版では違った。
⑦神父の歌の最後「私が買〜った」は、日本では1オクターブ上がり、高音になるが、ロンドンではそのまま。
⑧ロンドン版では、結婚式のシーンで、テナルディエ夫人に色目を使う酔っ払いの招待客(?)がいる。
⑨ロンドン版では、結婚式のシーンの背景がお屋敷の舞踏会場になっている。
⑩馬車に引かれた男をバルジャンが助けるシーンで、日本版では2回馬車を持ち上げるが、ロンドン版では一回ですっと成功してしまう。
他にも演出方法の細かい違いはあるのだが、指摘するのはこれくらいにしておく。(立ち位置が違うとか、扱いが違うとか、なので)
<ロンドンキャストの実力>
キャストは皆、実力者ぞろい。このロンドンキャストを観てしまうと、日本のレミゼは観られないかも。。。
一番良かったなと思ったのは、ジャベール。見た目はジャンレノなのだが(おそらく演劇で鍛えたであろう)発声の良さと、明瞭な発音、そして存在感と芝居のうまさ。どれをとっても素晴らしかった。
バルジャンも声を硬軟自在に使い分けられる実力者で、すべてにおいて文句のつけようの無し。
ファンテは太めでたくましい容貌だったが、歌のうまさはさすがだった。もう少し「儚い」印象の人だともっと良かったなあと思う。
エポニーヌは、まさにエポニーヌ。
台詞どおり「アバズレ」なのだが、マリウスの前に行くと、とたんに恋する女に代わり、彼のことを愛おしそうにずっと見つめ続け、彼のために全てを捧げようとする、「女」なんだな、というのがアリアリとわかる演出。日本のエポが不幸の少女的な演出なのだが、ロンドンのエポはもっと生々しい。当然ながら歌もすごく上手く、芝居も上手い。見た目も○。恐るべしロンドンキャスト。
ただ、いまいちだと思ったのが、(個人的に捨て駒(誰がやってもいい)と思っている)マリウスとコゼット。
マリウスは見た目はいいのだが、歌・芝居共に実力がちょっと。。。という感じだった。ただ、マリウスというキャラクターを体現している点では適役なのかもしれない。。
コゼットは、うーん、可もなく不可もなく、出っ張りも過ぎず、という無難な人選か?歌の上手さや容姿では彼女を上回る人がアンサンブルに沢山いたと個人的には思うのだが。。ただ、これに関しても、コゼットらしさという点では彼女が任なのかもしれない。
リトルコゼットとガブローシュは日本の子役のほうが全然いい。こちらの子役の子は音程が安定していないのと、日本コゼットと比べて悲壮感・健気さがなく、ちょっと我侭に見える節もある。まあ、それが子供らしい正直な感情表現なので、こちらのほうが正解なのかもしれないが、個人的には日本のリトルコゼットの方が好き。
観客の笑いと拍手を一番さらったのは(予想通り)テナルディエで、コメディ色、スゴミキャラ色、小狡賢い色など、テナルディエに求められるものを全て備えている感じがした。体格的には小柄なので、大柄なテナルディエ夫人と並ぶとバランスが取れる。
テナルディエ夫人は、初めて観るタイプのテナ夫人で、終始覚めているというか、達観しているというか、ふてぶてしく仏頂面をしている演技。時たま凄みを見せる場面があるが、基本的には何事にも動じず、「あんた何様?」的な無表情で相手を見つめているのが、最後には逆に不気味に思えてきた。
最後にテナ夫人と同様、アンジョは黒人のお兄さんが演じていた。
歌の上手さという点では、名ナンバーを持つ4人(バルジャン、ジャベール、エポニーヌ、ファンテーヌ)歌の実力が突出しており、そういう意味で基本に忠実な人選かもしれない、と思った。